コロトコフ音

　亡くなった聖路加病院の元院長、日野原先生は、１００歳でも「夢」がある人は若者で、２０歳でも「夢」のない人は老人である、と言って１０５歳で亡くなりました。亡くなった時、手帳には１０年先までの予定がびっしり書いてありました。相対性原理を発見したアインシュタインは、人生は「誰かのために生きることのみ価値がある」と言っていました。オーストラリアに送られた囚人が一つだけ持っていくなら「聖書」と答えています。日本人なら「歎異抄」でしょうか。私は「人生」は自分で築くものはごくわずかで、ほとんどが「生かされる」ものだと思っています。ヒトは社会的動物で、これが他の動物と違うところです。いくらポツンと一軒家に住んでいても、社会と完全に隔絶されているわけではありません。常に社会を意識して暮らしているはずです。ところで、ヒトの老とかかわることですが、今から１００年前の日本人の寿命はちょうど４０歳です。衛生状態、結核などの感染症等を考えると、納得できますが、現在は約９０歳で隔世の感があります。医学的には人が老いるということは、動脈硬化が進むということです。血圧が一番わかりやすいと思います。赤ちゃんの血圧は大体６０〜７０/０〜２０程度ですが、成人になる頃には９０〜１００/６０〜７０前後になります。赤ちゃんのままの血圧だと人生１４０歳ぐらいまで生きることができるという生物学者もいます。しかし、そんな人はいないわけで、人は動脈硬化とともに老いていきます。ロシア帝国の軍医、ニコライ・コロトコフが１９０５年、動脈をカフで絞めつけた時、聴診器で雑音を聞きました。これが血圧の発見です。以降、コロトコフ音と呼ばれるようになりました。コロトコフ音には５つの相があり、1、血流が始まる時の音、この時の圧が最高血圧です。２、血流の音が雑音のように聞こえる相。３、血流の音が大きい相。４、血流がかすかになる相。５、乱流がなくなって音が聞こえなくなる相、これが始まった時の圧力が最低血圧です。現在、１４０/９５以上を高血圧といいますが、血圧は低いに越したことはありません。昨年、９万人以上が１００歳を超えましたが、血圧が１１０/８０を超える人は一人もいません。赤ちゃんの血圧が６０〜７０/０〜２０ですので、この人たちの血圧は赤ちゃんなみで、まだ１０〜２０年寿命は延びていくでしょう。遺伝性もあり、どんなに食事、運動、減塩、睡眠に気を使っても高い人は高い。私の父は７人兄弟の末っ子ですが、４９歳で心筋梗塞、その後、脳卒中で亡くなりました。他の兄弟も血圧が高く、最終的には若くして全員が脳卒中で亡くなりました。降圧薬を飲みたくないという人の気持ちはよくわかります。私も３０歳代の時には朝４時に起きて、１時間ランニング、そのあとゴルフ練習場で５００球の打ちっぱなし、仕事から帰ってジムに行き筋トレ、有酸素運動。それでも血圧は１７０〜１８０／１００〜１２０で、飲んだり飲まなかったりしましたが、２年ほどで諦めました。時々胸痛が起こるようになったのです。狭心症です。動物で一番血圧が高いのは首の長いキリンで、安静時の血圧は上が４００を超えます。飛び込み選手が１０ｍの高さから飛び込むと、上が４００にまで上がります。ハンマー投げの選手がハンマーを投げた瞬間、上の血圧は４５０を超えます。しかし、下の血圧が９０を超えることはありません。下の血圧が９５を超えなければ脳血管障害は起こしません。

２０２３．１０．２２．　氷川台内科クリニック　院長　櫻田　二友