がん
ヒトの体は約60兆個の細胞からできています。細胞が分裂する時、元のDNAをコピーして、新しい2つの細胞に振り分けます。人間のすることですから、コピーミスを起こすことがあります。これが遺伝子の突然変異です。突然変異を起こした細胞は多くの場合死にますが、ある遺伝子に突然変異が起こると、細胞は死ぬことができなくなり、とめどもなく分裂をくりかえすことになります。この「死なない細胞」ががん細胞です。がん細胞は健康な体でも1日に5000個も発生しては消えていくことがわかっています。がん細胞ができると、そのつど退治しているのが免疫細胞(リンパ球)です。しかし、年齢を重ねると、突然変異が積み重なって細胞の発生が増える一方で、免疫機能が落ちてきます。生き残ったがん細胞が、やがて塊としての「がん」になっていきます。長生きするとがんが増えるのはそのためです。ところで、最近、野菜についた残留農薬や食品添加物が、がんを誘発しているといった声がよく聞かれます。コンビニでは食品を長持ちさせるために食品添加物や遺伝子組み換え食品は欠かせません。美味しいおにぎりも、塩分は家庭で作るごはんの2倍含まれています。1996年にハーバード大学が行った米国人のがん死亡要因に関するコホート(大規模集団)研究があります。要因として一番多いのは、「喫煙」と「肥満」で、それぞれ30%です。それ以外の要素は、ほとんどが5%以下で、順に、座りがちな生活様式、職業要因、がんの家族歴、ウイルス・他の生物要因、周産期・成長、生殖要因、飲酒、社会経済要因、環境汚染、電離放射線・紫外線、医薬品・医療行為と続き、最後に食品添加物が約1%、残留農薬に至っては、ほとんどが関与してないという結果でした。日本では遺伝子組み換え食品が70%、農薬の入ってない野菜はほとんど皆無です。それにもかかわらず、日本人の寿命は世界一で、男性81歳、女性87歳です。しかも、まだまだ伸びています。免疫細胞は骨髄で産生されますが、ほぼ70%が腸管に存在し、その数100兆個ともいわれています。したがって、腸の環境を乱すような食事、運動不足、睡眠不足、ストレスなどは免疫を低下させます。免疫細胞の仕事は、兵隊と一緒で、直接がん細胞を食べてしまう貪食細胞、がん細胞だけを攻撃するキラーT細胞、B細胞・NKT細胞を活性化して攻撃命令を出すヘルパーT細胞、がんの目印を目標に攻撃するNKT細胞、がんの目印を記憶して抗体を作るB細胞、正常細胞以外はすべて攻撃するNK細胞、がんの特徴をT細胞に伝達するマクロファージ、樹状細胞などがあります。これら免疫ネットワークを使ってがんの攻撃に備えます。しかし、これらの細胞には寿命に限りがあります。数時間から数か月、中には数年を超えるリンパ球もありますが、これらの細胞は兵隊と同じで訓練が必要です。体内のがん細胞を見張って、いつでも出動できる準備をしておかなければなりません。この訓練のために、たばこも残留農薬も食品添加物もある程度必要です。遺伝子組み換え食品、食品添加物、残留農薬をまったくなくしてしまうと、この訓練ができません。喫煙率は1966年の83.6%をピークに、現在では、男性25.4%、女性7.7%(2023年)です。喫煙率が下がっても、がんは増え続けています。現在でもがん死亡要因のトップであるということは、それ以上に高齢化が進んでいることを物語っています。がん細胞は10年を経てやっと1cmの大きさになりますが、その後は急速に増大します。それまでに早期発見することが大切です。欧米のがん検診率は70〜80%ですが、日本では今だ40%にも満たない状況です。しかも、検診で見つかるがんは13.9%(2020年)にすぎません。現在すべてのがんは早期発見でほぼ100%治ります。日本のがん死が多いのは、遺伝子組み換え食品、残留農薬や食品添加物ではなくて、がん検診率の低さです。
2023.12.13. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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