新型コロナウイルス その38 パクスなき世界
日経新聞に「パクスなき世界」が連載されています。「その5」、この危機の時代に、あなたは何を頼みにして生きていきますか。世界の人がたった1か月の間に学習した時間が年換算で450年分を超えた。新型コロナウイルスの第1波が襲った4月、ビジネスSNS(交流サイト)の米リンクトインが提供するオンライン講座の視聴時間が計400万時間に上った。新型コロナの感染拡大で企業は傾き、仕事中心の価値観も揺らぐ。外出制限下でスキル磨きを始める人が増えた。100年前、大流行したスペイン風邪で亡くなったマックス・ウエーバーは著書「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」で、勤勉に働くのを是とする倫理的な環境が西欧資本主義の原動力になったと説いた。現代、同じ時間帯に満員電車で通勤し、オフィスに集まり、会議を重ね、遅くまで残業する。そんな「当たり前」が突然「不要不急」とみなされ、労働時間は勤勉さの指標ではなくなった。多くの人が自分の価値を自問し始めている。シンガポールの航空会社で副操縦士を務めていた日本人男性(36歳)もその一人。3月下旬に全便が運休となり、4月に退職を勧告された。帰国後、生活のためにウーバーイーツの配達員を始めた。ウイルスを前に操縦士免許や9年の操縦士歴も無力だった。業界復帰にむけて「人間性を磨き、付加価値の高いパイロットをめざす」と話す。製造業中心の発展で生まれた中間層、享受してきた豊かさはデジタル化の進展に伴い、急速に細った。コロナ禍で増幅した不満やいらだちが反移民などの排外主義に向く。世界の混乱は価値観の断絶を生み、組織との結びつきに依存する社会のもろさを露呈させた。ペストの流行が個性を花咲かせたルネッサンスに繋がったように、不透明な時代を主体的に生きる強靭さをどう身に着けるか。自分が生き抜くよりどころを増やすためにも新たな挑戦を始めるしかない、と結んでいます。14世紀のヨーロッパで流行したペストでは人口の3分の1が亡くなりました。それまでの封建社会は崩壊し、神聖ローマ帝国の皇帝が波紋を恐れてローマ教皇に屈服しました(カノッサの屈辱)。その教皇もその他大勢の聖職者もペストで亡くなりました。教会、領主の2つの権力の失墜が、新たな社会、ルネッサンスに向かうことになります。教会が支配していた「暗黒の時代」と決別し、人間を解放する運動です。レオナルド・ダビンチ、ミケランジェロ、ラファエロ、マキャベリなどが活躍します。アイザック・ニュートンはイギリス・ケンブリッジ大学で研究生活を送っていましたが、休校となり故郷ウールスソープに帰りました。2年の自粛生活の中で「万有引力の法則」、「微分積分」、「プリズム光学」を発見しました。自粛生活で気を付けることは、毎日の日常を変えないことです。ニュートンも大学と同じ研究生活を故郷でも行っています。大学にいたら、いらぬ邪魔がはいって自由な研究生活を送れなかったかもしれません。私自身は、夕食が終わった後、一人書斎にこもって、ジャズを聴きながら9時ごろから1時間ほどこの文章を書いています。その後は、新型コロナウイルスについて自分と同じ考えをもった学者連とSNSで交流します。寝る前1〜2時間は右においてあるキーボードで自分の好きなジャズの定番「枯葉」や「ブルー・ボッサ」、「いつか王子様」などをアドリブして過ごします。今も毎日、コールセンターからPCR検査をしてほしいという依頼が後を絶ちません。PCR検査を受けないと会社に行けないのです。PCR検査は咽頭の数個のウイルスを数百万倍に増やして検出する方法です。新型コロナウイルスで亡くなった遺体の肺の中から、大量のウイルスが見つかったという論文は過去にありません。PCR検査の終息を願うばかりです。
2020.9.12. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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