新型コロナウイルス　その４０　吉本　隆明

　吉本隆明は１９２４年１１月２５日、東京都月島で男女６人兄弟の３男として生まれました。実家は熊本県天草市から転居してきた船大工でした。１７歳で米沢高等工業学校（現山形大学工学部）に入学しますが、当時から宮沢賢治、高村光太郎、小林秀雄、横光利一らの影響を受けて詩作を始めます。ただ、幼少期は第二次世界大戦真っただ中で、皇国教育のもと中等・高等教育をまともに受ける機会が持てなかったいわゆる「戦中派」世代にあたります。向島での勤労奉仕の後、１９４５年、東京工業大学に進学、在学中に数学者で恩師、遠山啓と出会います。大学卒業後いくつかの町工場に努めますが、労働組合運動で職場を追われ、１９５１年、当時インク会社の最王手、東洋インキに就職しました。１９５３年、詩集「転位のための十篇」を自費出版しました。第六篇「ぼくがたおれたらひとつの直接性がたおれる」は有名です。１９５６年、「文学者の戦争責任論」を展開し、「プロレタリア文学」運動に参加した人物を批判、その後会社の労働組合運動で東洋インキを退職しています。１９５８年には、戦前の共産主義者たちの転向を批判した「二段階転向論」を展開しました。６０年安保では、６月１５日、国会構内抗議集会で演説し、死者まで出た流血事件の中で１００人の仲間と「建造物侵入現行犯」で逮捕されました。全学連主流派が混乱状態に陥って以降は「自立の思想」を標榜して雑誌「試行」を創刊します。その中でー何より国家からの自立を意味する有名な「共同幻想論」が構想されました。「パン」の問題を隠蔽して、あたかも革命的・進歩的であるかのように振る舞う「知識人」はいかがわしいーこれが「丸山眞男論」に発展します。当時の大学生は、この「共同幻想論」を今のスマホのように大事そうにかかえていたと、当時大学生だった社会評論家、吉田和明が述懐しています。１９８０年代に入ると、豊かな消費社会と連動し、テレビ・アニメ・漫画を論じた「マス・イメージ論」などを展開、サブ・カルチャーを評価しました。同時に１９８６年のチェルノブイリ原発事故から盛り上がった反核署名運動を批判しました。科学は後戻りできないと述べています。１９９０年代に入ると、空気や天然水といった、値段がつかないと考えられていたものすら、商品として売られる「超資本主義」が到来し、中流意識が９１％を超え、国家社会に特別の要求はなくなり、したがって、関心も理想も切実にはいらなくなるー資本主義はなくなる、と言っています。その後、阪神淡路大震災、オウム真理教、地下鉄サリン事件、アメリカ同時多発テロ、イスラム原理主義などについて論争を繰り広げます。１９８０年の埴谷雄高との論争を振り返り、現在を「消費産業（第三次産業）の科学技術により、状況判断の展開が私たちの思考力を超えた」「ことに科学的には少しの思い付きを追ったに過ぎないと思えることが莫大な富を生む権力に結び付きうるという事態の怖さを見せつけた」「地域の空間と時間の無境界化に対応したり対抗したりする思考や思想を私たちはもっていない」「情報科学と交通理念は、グローバルな独占支配の手段以外にこれを変更することができない第二の天然自然と化しつつある」と述べています。ＰＣＲ検査は新型コロナウイルスの遺伝子と考えられる約３万塩基からリアルタイムに、任意に取り出した１００塩基対を数百万倍に増やして検出します。コロナウイルス本体を検出するわけではありません。テニスコートにあるボール２個をコートいっぱいにして似た遺伝子を見つけたといっているだけです。政府も国立感染研もわかっているはずです。吉本隆明は２０１２年３月に亡くなりましたが、もし生きていたらこのコロナ禍を何と表現したでしょうか。

２０２０．９．２３．　氷川台内科クリニック　院長　櫻田　二友