新型コロナウイルス その44 同義置換
今日は高校の生物で習う「コドン」と「同義置換」についてお話したいと思います。コドンとは、核酸の塩基配列が、タンパク質を構成するアミノ酸配列に翻訳されるときの、各アミノ酸に対応する3つの塩基配列のことです。コドンは、厳密には実際のタンパク質の設計図として機能するmRNA中にあります。RNAヌクレオチドの塩基は、A(アデニン),C(シトシン),G(グアニン),U(ウラシル)の4種類があります。「同義置換」とはこのコドンが変わっても遺伝子のアミノ酸としての性質が変わらないことをいいます。新型コロナウイルスはRNAウイルスで変異が激しく、変異体はおそらく1万を超えていると思われます。ウイルス遺伝子のアミノ酸1つ1つに1〜6個のコドンがあります。例えば、GCC、GCA,GCGというアミノ酸はすべて「アラニン」です。GGC、GGA、GGGはすべて「グリシン」です。コドンの3番目はすべて違いますが、それぞれアミノ酸の性質は同じです。PCR検査にはプライマーとしてアミノ酸、20塩基を使用します。相補的アミノ酸を20塩基、合わせて40塩基を使用します。3塩基でコドンを作り、これが1アミノ酸になります。40塩基をコードするアミノ酸は13アミノ酸です。コドン表に64通りのコドンが書かれています。これが20アミノ酸に相当します。これに終始コドン3種類が加わります。考えられるアミノ酸の数は3の12乗個=159万種類になります。同義置換体が計算上159万種類あるということです。アミノ酸が100個あれば同義置換体は3の100乗個あり、天文学的な数字になります。これら数百万種類のアミノ酸配列はすべて同じ性質を持っています。これが、RNAウイルスが変異しやすい理由です。PCR検査は新型コロナウイルスと考えられる遺伝子のアミノ酸の159万分の1しか検出していないことになります。「非同義置換」は「同義置換」の逆で、タンパク質を作るのにつなげるアミノ酸が変わってしまう塩基配列の置換のことを言います。例えば、「ロイシン」をコードしていた3つの塩基配列「UUA」が「UUC」になると別のアミノ酸「フェニルアラニン」をコードしてしまい、全く別の性質になります。生物が生き残っていくためにはタンパク質の種類を最終的に変えてしまう「非同義置換」は不利で、種内で生き残っていくためには圧倒的に「同義置換」の方が有利です。国立遺伝学研究所の木村資生先生はアミノ酸置換の速度からゲノム全体で1年あたりいくつの遺伝子置換がおこるか推定しました。その結果遺伝子の置換数がゲノム全体では多すぎる、つまり遺伝的荷重の理論から推定するよりもはるかに多数の置換が「中立的に」起こっているという結果を1968年、「Nature」に発表しました。いわゆる「中立説」です。それは分子レベルでは自然淘汰に良くも悪くもない突然変異が偶然に集団の中に広がった結果起こるものがほとんどであり、表現型とは関係ないということを強調したものでした。その後、1980年代から遺伝子DNAの配列を決める技術が進歩し、「同義置換」と「非同義置換」のパターンの比較ができるようになりました。その結果、「同義置換」は「非同義置換」よりも進化が速く、どんどん置換が起こり、中立説の予想どおりになりました。そして「非同義置換」は進化も遅く、有害効果も多いことがわかりました。PCRの発明者で、ノーベル化学賞受賞者のキャリー・マリスは感染症の診断にPCR検査を使用してはならないと繰り返し言い続けてきました。コロナ騒動が始まる直前、昨年8月原因不明の肺炎で、自宅で亡くなりました。政府の分科会の専門家が高校の教科書に出てくる話を知らないはずはありません。ほとんど「ざる」と言っていいようなPCR検査を続けるかぎり、新型コロナウイルス感染症の問題はおさまりません。
2020.9.28. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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