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新型コロナウイルス その55 C型肝炎


 今年のノーベル医学生理学賞は「C型肝炎ウイルスの発見」に尽力した3人、米国立衛生研究所(NIH)のハーベイ・オルター博士、カナダ・アルバータ大学のマイケル・ホートン博士、米ロックフェラー大学のチャールズ・ライス博士に贈られました。肝臓は人体の中で最も大きな臓器で、栄養を貯蔵し、有害物質を解毒・分解し、食べ物の消化に必要な胆汁の合成・分泌をするきわめて大切な働きをします。不衛生な水や食べ物などを口にすると感染し、劇症化するA型肝炎と、血液や体液を介して感染し、慢性肝炎を発症するB型肝炎は、いずれも1960年代から70年代にかけて原因ウイルスが発見されました。しかし、その後も輸血を受けて慢性肝炎になりながら、A型でもB型でもないケースが多く報告され、しばらく「非A非B肝炎」と呼ばれながら原因は不明でした。ちょうど私が医師になったころと重なります。今、世界は「新型コロナウイルス」の脅威と直面していますが、その頃「非A非B肝炎」は同じように未知の「新型」ウイルスでした。オルター氏は1975年、A型やB型肝炎の原因ウイルス以外にも肝炎を引き起こす病原体があることを、チンパンジーをつかった実験で突き止めました。ホートン氏は1989年にウイルスを特定し、直接ウイルスは分離できませんでしたが、独自の手法で感染したチンパンジーの血液から遺伝子断片を複製しました。キャリー・マリスが1987年にPCR検査を開発していましたが、未知のウイルス遺伝子を検出できないことを理解していました。ライス氏はチンパンジーの肝臓に、このウイルスを注入して新型の肝炎を起こすことを確認し、ウイルスの複製に重要な遺伝子部分の特定もおこないました。また、試験管内でこのウイルスを複製する仕組みを作りました。これが画期的なNS5A合成阻害薬、ハーボニー(一般名レジパスビル・フソスブビル)の開発につながりました。これが承認されたのが、2014年です。これにより、96%〜100%の人でウイルス除去が可能になりました。ウイルスの発見から薬の開発までおよそ50年が経過しています。世界保健機関(WHO)は、C型肝炎の患者は世界で年間7000万人にのぼると推定し、このうち40万人が肝硬変や肝がんで死亡しているとしています。WHOは2030年までにC型肝炎の撲滅を目指していますが、程遠い状況です。ワクチンの開発も続けられていますが、未だにできていません。C型肝炎に罹患すると、数日から数週間で、全身倦怠感、食欲不振、嘔気などの症状が出ることがありますが、これは軽く、7割が持続的な感染者となります。この後は無症状で過ごす人がほとんどで、定期的に検査を受けなければ、C型肝炎の重症化は見過ごされてしまします。会社の定期健診でもC型肝炎の有無はわかりません。気が付けば肝硬変、肝がんの状態に進行しています。他人に移す可能性があるので、上部・下部消化管検査をする前の血液検査で見つかることがほとんどです。遺伝子研究のレベルは大幅に進んでいますが、現在、あるかないかわからない「未知」のウイルスに対して、ワクチン開発が急ピッチで行われています。最終段階の第3相試験で、重篤な副作用や死者もたくさん出ています。まだ、単離もされず、培養実験もされてない、まして感染実験もできていない「コッホの4原則」を無視した未知のウイルスに対して「今年度末までに」、「来年までに」などという幻想が、あたかも現実のようにメディアを賑わせています。PCRが陽性でも陰性でも病気は臨床医に任せておけばいいのです。専門家はPCR検査やワクチン開発をするのではなくて、ウイルスの解明に全力を注ぐべきです。C型肝炎ウイルス発見の歴史が私たちにこれを教えてくれています。


2020.10.23. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友

 

 

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