新型コロナウイルス その61 症状
先日のNHKスペシャルで、新型コロナウイルスに関する英語の論文、およそ20万本をAI=人工知能を使って解析したところ、肺炎や発熱などの他に、味覚障害やドライアイ、蕁麻疹などの少なくとも116種類の症状がある、その中の30種類にめまいや記憶障害、幻覚など脳や神経に関する症状があったと報告しています。おそらく、呼吸や睡眠などをつかさどる「脳幹」の部分に炎症が起こった可能性があると指摘しています。診療中よくある質問で、「症状」と「病気」の区別がついていない患者さんがいます。「症状」は「病気」の結果です。「病気」がなければ「症状」はありません。「病気」はその「原因」がなければ「病気」になりません。これから、例をいくつか紹介します。一般内科外来で一番多い症状は、順に「発熱」、「咳」、「腹痛」、「胸痛」です。これを順に説明していきます。「発熱」の原因で一番多いのは、「新型コロナウイルス その57 かぜ症候群」で書いた、風邪です。咽頭粘膜に侵入したウイルスや細菌が繁殖し、それに免疫細胞が反応し、脳の視床下部を刺激します。同時にIL‐1、IL‐6などのサイトカインが血管内皮細胞に作用するとプロスタグランジン合成酵素が作られ、プロスタグランジンE2が作られます。プロスタグランジンE2は、脳内組織に拡散されて、視索前野と呼ばれる神経細胞のEP3という受容体にくっつきます。これによって発熱(体温上昇)に関わる神経回路が活性化されます。消炎鎮痛剤はプロスタグランジン合成酵素を作らせないようにするため、自然な神経回路を妨げることになります。したがって、ただの風邪で発熱したのに使うのはよくありません。女性の発熱で多いのは膀胱内の菌が逆流し、尿管を通って腎盂で細菌が繁殖する腎盂腎炎です。この原因のほとんどが腸内細菌なので、抗生物質を使います。「発熱」には自律神経も関係します。「新型コロナウイルス その54 ウイルス対策ソフト」で書いたように、交感神経が過敏に反応しても発熱します。「咳」の原因で一番多いのも、やはり、風邪で、通常は安静、水分、栄養補給により数日で軽快します。数週間続く咳を「遷延性咳嗽」と言いますが、咳喘息、アトピー咳嗽、副鼻腔気管支症候群(後鼻漏)でほぼ80%を占めます。これには吸入ステロイドがいいのがわかっていますので、一般の内科外来で使われることが多くなってきています。しかし、これにも落とし穴があります。口腔、食道カンジダ症です。カンジダは口腔内の常在菌です。最近多くなったのは吸入ステロイドの使い過ぎです。その他にはGERD(胃食道逆流症)があります。いずれも上部消化管内視鏡で確認できます。「咳」はこれらの「病気」の結果であって、咳止めは意味がありません。「腹痛」の原因で一番多いのは、感染性胃腸炎です。いわゆる胃腸の風邪です。下痢、嘔吐が激しければ、点滴などの入院が必要となりますが、通常は1〜2日で軽快します。他に胃炎や胃潰瘍、胆石、膵炎、胃がんなどがありますが、それぞれの病気の原因を治療する必要があります。「痛み止め」は一時しのぎにしかなりません。人が感じる最大の「胸痛」の原因は急性大動脈解離ですが、これは治療に一刻を争います。他に心筋梗塞、狭心症、自然気胸などがありますが、どの疾患もその原因を治療する必要があります。NHKスペシャルですから、国の指針の下に作成されています。くしくも、国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長は、「感染症の二次的な症状で、これほど種類が多いのは聞いたことがない。」と、自分で「真実」を語っていることに気づいていません。もともと、常在性のウイルスですから、どんな症状が出てもおかしくありません。解析そのものが無駄です。
2020.11.9. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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