新型コロナウイルス その77 BSL−4
BSLとはbiosafety levelの略で細菌・ウイルスなどの微生物・病原体等を取り扱う実験室・施設の格付けです。世界保健機関(WHO)ではLaboratory biosafety manualに基づき、各国で病原性の危険性に応じて4段階のリスクグループを定め、それに応じた取り扱いレベル(BSL)が定められています。「グループ1」はヒトあるいは動物に病気を起こす可能性の低い微生物。「グループ2」はヒトあるいは動物に病気を起こすが、実験室およびその属する集団や家畜・環境に対して災害を起こす可能性がほとんどない。実験室感染で重篤感染を起こしても、有効な治療法・予防法があり、感染の拡大も限られている。麻疹、風疹、水痘やインフルエンザ、コロナ、アデノ、エンテロなどの風邪ウイルス、A型、B型、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス、ロタウイルスなどがこれに相当します。細菌では、連鎖球菌、赤痢菌、コレラ菌、梅毒、ジフテリア、破傷風、食中毒を起こすサルモネラ、カンピロバクター、黄色ブドウ球菌などがあります。「グループ3」はヒトあるいは動物に生死に関わる程度の重篤な病気を引き起こすが、有効な治療法・予防法がある。黄熱病、狂犬病、AIDS、SARS、MERSウイルスなどで、細菌では、結核菌、腸チフス、パラチフス、ブルセラ菌、ペスト菌などがこれに属します。「グループ4」はヒトあるいは動物に生死に関わる程度の重篤な病気を起こし、容易にヒトからヒトへと直接・間接の感染を起こす。有効な治療法・予防法が確立されていない。多数存在する中でも毒性や感染性が最強クラスのものです。エボラ出血熱、マールブルグ熱、ラッサ熱などを引き起こすウイルスです。細菌でグループ4に属するものはありません。エボラ出血熱は1976年8月26日、当時のザイール、現在のコンゴ民主共和国のエボラ川近くのヤンプクで44歳の男性が嘔吐下痢などのマラリア様症状を呈していましたが、その後粘膜からの出血と多臓器不全で死亡したことが発端です。この年318人が感染し、280人が死亡しています。これをザイールエボラウイルスと言い、その後スーダンエボラウイルス、レストンエボラウイルス、タイフォレストエボラウイルスと共に4種のエボラウイルスが発見され、2002年にエボラウイルス属と定義されました。2014年2月〜2016年6月まで西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネからナイジェリア、マリなどの周辺国で流行し、ヨーロッパやアメリカに拡大したザイールエボラウイルスは28610人に感染し、11308人の死者を出しました。日本にも2014年11月8日、リベリアに滞在していた60代男性とギニアから入国した同国籍の20歳女性が簡易検査で感染が疑われましたが、国立感染症研究所(東京)の精密検査で陰性が確認されました。この時は日本中が大騒ぎになりました。ヒトとヒト以外の霊長類に対して非常に感染力が強く、ヒトの致死率はザイールエボラウイルスで約90%、スーダンエボラウイルスで約50%です。取り扱いは最高度安全実験施設で、レベル3に加えて、実験室は他の施設から完全に隔離され、詳細な実験室の運用マニュアルが装備されています。クラスV安全キャビネットを使用する。通り抜け式オートクレーブを使用する。シャワー室を設置する。実験室からの排気は高性能フィルターで2段階浄化する。化学防護服未着用での入室を禁ずる、などです。レベル4の実験室を保有している国家は限られていて、日本には国立感染症研究所村山庁舎と理化学研究所筑波研究所だけです。新型コロナウイルスはクルーズ船が横浜港に入ってきた昨年2月3日、レベル4扱いでした。1月24日に全世界に流れた中国武漢の映像があまりに衝撃的だったからです。これがいまだに続いています。これをインフルエンザ並みのレベル2に引き下げる議論が全国の保健所を含めて、あちこちで起こっています。PCRを止めて抗原検査だけにするのです。
2021.1.18. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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