新型コロナウイルス その100 コウモリ
コウモリと聞いて、しげしげとコウモリを見た人はあまりいないと思います。小中学生の頃、我が家の消灯時間は夜9時でした。それは両親が朝早く出かけるからで、私たち兄弟が朝起きた時にはもう仕事にいって家にいません。自然に学校に行く時間も早くなり、時にはまだ守衛さんが来る前に学校にいるということもありました。田舎でしたから、学校の教室に鍵がかかっていなかったのです。まだ薄暗いうちに家を出るので、あちこちでコウモリが飛んでいました。時には服のポケットに勝手に入ってきます。コウモリの体温は夜間には39度にもなります。寒い朝などコウモリが飛び込んでくると、暖かく服に入れたまま離さないように学校に持って行きます。そのままポケットに入れて授業を受け、一日コウモリと遊んで、帰りに逃がしてあげます。時には羽を広げ、逃げようとしますが、そこは子供、噛まれながらも皆でいじくりまわして遊んでいました。コウモリは空を飛んでいますが、鳥ではありません。人間と同じ哺乳動物です。世界中に1000種類以上存在し、全哺乳類の約4分の1がコウモリです。コウモリと聞くと、吸血鬼のイメージを抱く人もいると思いますが、そんなことはなく、果実や昆虫、花の蜜、両生類や魚が主食です。夜行性で夜は餌を探して飛び回り、昼間は洞窟や木にぶら下がって過ごします。コウモリの寿命は以外と長く30年近くにもなります。コウモリ由来の感染症にSARS、MERS、エボラ出血熱、二パウイルス、狂犬病、マールブルグ熱などの他、今回の新型コロナウイルス感染症などがあります。コウモリがこれらのウイルスを持っていても発症しないのは、おそらく体温が高いのが原因と思われます。ウイルスは39度では生きていけません。一番居心地のいいのが36度前後で、これがヒトの体温です、これら人畜共通感染症のほとんどは、コウモリを介して、ラクダやネズミ、豚、鳥を通じて人に感染します。コウモリに噛まれて感染するわけではありません。ヒトゲノムはDNA(デオキシリボ核酸)でできていますが、コロナウイルスはRNA(リボ核酸)でできています。一般にRNAウイルスのゲノム複製はRNAを鋳型としてRNA依存性RNAポリメラーゼ(RNA-dependent RNA
polymerase; RdRp)が担当します。コロナウイルスの30,000塩基のゲノムを複製するのは、原稿用紙75枚分の文章を書き写すようなものです。人間でも書き間違いをするように、コロナウイルスのRdRpも頻繁にミスをします。しかし、あまりミスが多いとウイルス増殖もうまくいきません。そこでコロナウイルスはRdRpのミスを校正するnsp14という酵素を作ります。いわば、これは誤字を修正するための消しゴムのような酵素で、そのおかげで複製ミスは20分の1程度に減ると予想されますが、ミスがゼロになるわけではありません。コロナウイルスの変異頻度は、1回の複製あたり、ゲノムの各塩基について100万分の1程度の確率と推計されます。コロナウイルスのゲノムの大きさは約30,000塩基であり、1回の複製で約1,000個の子孫ウイルスが作られます。1個の親ウイルスが1サイクルの複製(約10時間)を経て産生する子孫ウイルス集団の中には、何らかの変異を持つウイルスが必ず含まれるという計算になります。オミクロン株は新型コロナウイルスの遺伝子の中央部分、スパイク蛋白、約3,800塩基の一部が変異しています。PCRは一方、一番端のヌクレオチドの部分、全体の300分の1、約100塩基を検出します。オミクロン株を検出するためにはこの約30,000塩基の遺伝子情報が正確であるということが条件です。コウモリの移動距離はせいぜい100〜200mです。南アフリカ発症のオミクロン株が突然、京都市や大阪府で見つかるというのはとても変です。よくマスコミで感染経路が不明と言っていますが、もともとRNAウイルスは勝手に変異しているのです。PCRの設定を最初からオミクロン株にすれば、いずれ必ず検出してしまいます。
2021.12.26. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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