新型コロナウイルス　その１０４　大学生活

　今から５０年ほど前、私は大学受験のため、初めて列車というものに乗りました。朝７時、博多駅を出発し、山陰本線で鳥取県米子駅についた時にはもう外は真っ暗でした。おまけにしんしんと雪が降り積り、膝上４０�p程になっていました。駅前の人影のない商店街らしい道をまっすぐに歩いていると、右手にポツンと明かりが見えました。看板には「岡田屋」と書いてありました。誰も泊まっている様子はなく、こんなへんぴなところに大学があるのかな？―などと思いながら一泊することにしました。部屋で明日の試験の準備をしていると、まだ年のころは４０歳ぐらいで、和服姿の美人の女将さんが私の教科書をのぞき込んできました。初めての旅で、初めて見る大人の女性の色香を感じました。私は明日大学受験があることを話しました。夜遅く、予約もせずにやってきて、明日大学受験をするようには見えなかったのでしょう。確かに、前もって予約してきたわけでもなく、ただ受験にきただけなので、泊まる所など何とかなるだろうという気持ちでした。インターネットなどない時代でしたから、大学への行き道も分かりません。それでも、あまり気にしていませんでした。夕食を持ってきた女将さんは私の教科書の化学式を見て、懐かしそうに話しはじめました。数学や化学が得意で、東京理科大学で科学者として研究を続けていたが、両親が亡くなったため、仕方なく家業を継いだこと、明日受験する大学への行き方なども教えてもらいました。翌朝雪は止んでいましたが、一面の銀世界で、大学まで雪に埋もれながら歩いていきました。下見もしていなかったので、朝早く出かけましたが、行ったところが医学部の解剖学実習室でした。先生に昨日までのいきさつを説明すると、先生（解剖学の田中敬一教授＝のちにエイズウイルスを世界ではじめて電子顕微鏡で撮影することに成功する）は、ここは受験会場じゃないと言って、会場まで案内してくれました。試験は無事終了し、一泊二日の旅は終わりました。これが、私が医学の道に踏み込んだ第一歩でした。それまで文学少年だった私がスキーやヨットをするとは思いもしませんでした。毎年６月第１週に行われる大仙の夏山開きには全国から山男たちが集まってきます。前日に山頂に登り、キャンプをします。夜、大神山神社から数千人がたいまつをもって降りてくる光景は圧巻です。当日は山の歌コンクールが開かれます。私は６年生の時、鳥取大学医学部男性合唱団代表で参加して指揮をし、大学創立以来、初めての優勝を果たしました。大学に帰るとＯＢたちの大祝勝会が待っていました。私は涙が止まりませんでした。楽しい大学生活はあっという間に終わりました。現在大学生はコロナ禍で授業もままなりません。先日外来に受診した大学生は今年就職ですが、この２年に１回しか大学に行ってないと言っていました。楽しいはずの大学生活が台無しです。２月２５日、国立感染症研究所感染症疫学センターで会合がありました。資料によると２月１６日までに報告があった重症例２５５例と死亡例３４３例を分析したところ、重症例の中央値は７３歳、死亡例の中央値は８７歳でした。これは日本人女性の平均寿命です。男性の平均寿命が８１歳ですので、新型コロナウイルスに感染すると、日本人男性の寿命は逆に、女性なみに延びることになります。政府の感染症対策は全く対策になっていません。国民も政治家も巨大な権力を得たマスコミに騙されてはいけません。

２０２２．４．４．　氷川台内科クリニック　院長　櫻田　二友