麻疹
1麻疹ウイルスに感染すると、10〜12日間の潜伏期間を経て38℃前後の発熱、倦怠感、咳、鼻汁などの症状が表面化する。発熱は、発症後3〜5日目にいったん1℃ほどさがるものの、半日後には再度39〜40℃まで上昇する。特有の発疹が耳の後ろ・頸・顔面に出現しおおむね2日間で体幹から四肢の末端にまで及ぶ。回復期では、発疹の出現から3〜4日間続いた発熱がおさまり、結膜炎症状も改善に向かう。ただし、麻疹ウイルスはリンパなどで増殖して1時的に免疫力を損なうため、7〜10日経過後には主症状が改善を示す一方で別の病原体に二次感染したり、体力回復に1ヶ月近くを要する症例も珍しくない。発症例の約3割に肺炎、中耳炎、クループ症候群、腸炎、心筋炎、脳炎などが合併し、肺炎と脳炎は2大死因である。脳炎は1,000例あたり0.5〜1例の割合で、合併し、20〜40%に精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、麻痺などの後遺症を残すほか、致死率も15%に達し、年長児から成人で発症率が高いのも特徴である。遅発性の脳炎は罹患7〜10年後に発症し、致死率の高い亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は麻疹罹患者10万例に1例、麻疹ワクチン接種者では100万例に1例罹患する。
麻疹ウイルスは、飛沫または飛沫核を介してヒト間で感染する。場合によっては接触感染もおこす。感染力は強力で、感染者1人が免疫を持たない者にたいして何人の二次感染者をだすかの指標である基本再生産率(basic reproduction number:R0)は12〜18と、インフルエンザのR0 1〜2をはるかにしのぐ。麻疹に対する免疫を保有していない場合、ウイルスに感染すると発症率は90%以上という。
また、現在までのところ麻疹に特異的な治療法はない。ワクチンによる予防がもっとも有効・確実な方策になるうえ、発症者と接触しても72時間以内なら、100%とはいえないものの、緊急ワクチン接種が間に合う可能性がある。
2007年4月以来、首都圏の学校を中心に麻疹の集団発生が相次ぎ、7月下旬までに263施設が休校に追い込まれた。10〜20歳代前半で全報告数の約半数を占め、全報告者のうち、予防接種歴なしが約60%であった。
海外で麻疹の排除に成功した国々では、今や「ウイルスの持ち込み」に眼を光らせている。5月末に東京の高校生が修学旅行先のカナダで発病、行動の制限や全員の血液検査、帰国が延期されるなど、国際的な問題に発展した。わが国は、麻疹輸出国であるとの避難の声もあった。
若者の麻疹の症状は典型的な症状を呈していても、麻疹は子供の症状であるという既成概念から麻疹と疑われるのが遅くなる傾向にある。特に医療従事者・学校・保育・福祉関係者は日ごろから、学生は教育実習、海外への渡航、就職などの機会に、女性は妊娠の前に、麻疹をふくむワクチンの接種歴や罹患歴、抗体価をチェックし、十分な免疫を獲得しておくことが必要である。
2008.2.21.「Medical Tribune」より
2008.3.4. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
|