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人はなぜ生きる


朝日新聞に連載されていた「悩みのレッスン」で今年の4月11日号に哲学者 永井均さんが16歳の高校生の質問にこたえていました。質問の内容はこうです。私は中学からいじめられてきた。親は「高校に入ったら良いことがあるよ」といった。しかし高校でもなにも変わらなかった。別に今の自分の境遇を悲観しているわけではない。ただ、なぜこんなにつらいのに、私はここにいるんだろうと疑問に思っているだけだ。世界では生きたくても生きることのできない人がいる、その人の分まで生きないといけない──そんな言葉は聞き飽きた。と言うより、そんな言葉は遠い世界の話のように感じる。人は生きる目的を見つけるために生きている、といったきれいごとで答えてほしくない。人はなぜ生きるのだろうか。
永井さんはこの質問にこう答えていました。社会には個人を排除する権利があります(代表的なのは死刑)。個人が社会とうまく適合するとは限らないからです。同様に、個人には社会から自分を排除する権利があります(代表的なのは自殺)。社会が自分とうまく適合するとは限らないからです。これは人間社会の不変の原理です。でも、死刑と自殺には気づかれにくい一種の「越権」が含まれています。変な比喩ですが、真っ暗な宇宙の中に一台のテレビだけがついているさまを思い浮かべてください。テレビの番組が社会にあたり、テレビがついていることが生きていることにあたります。どの番組も全然つまらないかもしれません。これから始まる番組が面白いという保証もありません。でも、テレビそのものを消してしまえば、ただの真っ暗闇です。もう一度つけることはもうできないのです。番組の内容とテレビがついているということは、じつは別のことです。ですから、「なぜ生きているのか」という問いは、番組の中身を超えた問いなのです。番組のつまらなさがテレビがついていること自体の輝きを上回ってしまう場合もあるでしょう。それでも、つまらない番組を見ないために、その世界の唯一の光を、無限に時間の中に与えられた唯一の例外的な時を、抹殺してしまってよいでしょうか。それは一種の「越権」ではないでしょうか。これが、人が生き続ける理由だと思います。
私はこの問いと答えが半年ほど頭の片隅にひっかかっていました。それではなぜ「越権」を行使する人が増えてきたのでしょうか。最近マスコミでもうつ病による自殺が盛んにとりあげられます。しかし、うつ病と自殺は別々に考えなくてはいけません。うつ病はいつでも、だれでも罹る病気です。これにはきちんとした治療法があります。早期に治療すれば必ず治る病気です。自殺の原因でもっとも多いものは病気で、約6割を占めます。私が医者になった20数年前と今とこの比率はほとんど変わりません。「越権」を行使する人が増えてきたのは、実はうつ病とともに癌や生活習慣病による脳卒中、心筋梗塞などすべての病気が増えてきたためです。あまりの辛さにテレビを消してしまうのです。

2008.11.20. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友

 

 

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