抗IL−5抗体薬
今日は新しく発売された重症難治性喘息の治療薬、抗IL−5抗体薬についてお話したいと思います。当ホームページの喘息の説明に何度も出てきますが、喘息の病態は「慢性上皮剥離性好酸球性気管支炎」ということが分かっています。もともと好酸球は白血球の一部で血中に数パーセント含まれています。喘息が起こると血中の好酸球も増加しますが、気管支周囲にはこの200倍もの好酸球が集まってきます。好酸球がどうしてこれほど気管支周囲に集まってくるのかは長い間分からず謎の細胞と言われていました。それは、好酸球の性質によります。好中球やリンパ球は抽出して培養液に入れていれば長い間生きていくことができます。したがって、研究するのにあまり苦労はしません。好酸球は寿命が短く、早くて3時間、長くても半日しか生きていません。もともと研究に不向きなのです。また、取り出すのが厄介で、CD−16 depletion法で取り出せるようになったのがわずか35年ほど前です。その後研究が急速に進み、好酸球の性質がだんだんとわかってきました。喘息のほかにもチャーグ・ストラウス症候群、好酸球性血管炎肉芽腫症、HES(好酸球増多症候群)等の病態に関与していることがわかってきました。好酸球上には炎症を起こすC5aなどの補体、接着因子、LTB4,血小板活性化因子PAF、IL−5などのサイトカインの抗体がたくさん発現していることも分かってきました。このうち血管内皮をすり抜けて気管支粘膜下に集まってくるのに重要な役割を果たすのがIL−5です。気管支という幹線道路の周囲にたくさんの小さな道路があるとします。血管内皮も同じです。この道路にたくさんの好酸球という車が行ったり来たりしています。この状態では好酸球は悪さをしません。気管支上皮に移行して初めて炎症を起こします。この車を動かす車輪のアクセルになるのがIL−5です。IL−5抗体薬はこのアクセルにブレーキをかけます。したがって車は動けません。車は幹線道路に入っていけません。こうして気道上皮の炎症が蔓延するのを防ぎます。喘息治療ガイドラインによれば、まず1.吸入ステロイド 2.長時間作用型のβ刺激薬 3.抗ロイコトリエン拮抗薬 4.クロモグリク酸ナトリウム 5.抗アレルギー剤 6.テオフィリン製剤 7.抗IgE抗体薬 その他に経口ステロイド薬、アレルゲン免疫療法などの方法があります。これらを駆使してもまだ日常的に喘鳴の消えない難治性の重症喘息の患者さんが全体の5〜10%います。こういう患者さんにはこの抗IL−5抗体薬が非常に有効となります。月に1回の皮下注射剤です。アトピー型でも非アトピー型でも関係ありません。まず血中の好酸球濃度を測定します。好酸球数が150cells/μL以上、過去12カ月に喘息の増悪が2回以上、及び/または全身性ステロイド薬を連用投与していることが使用上の条件になります。ステロイドの内服は長期にわたると副腎皮質ホルモンの抑制や糖尿病、ステロイドミオパチーなど副作用が心配です。そのような患者さんにとっては朗報となる薬剤です。
2016.12.21. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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