新型コロナウイルス その2 感染経路
コロナウイルスという言葉を初めて聞く人が多いと思われますが、実は軽いかぜ症状の五分の一はコロナウイルスが原因です。それほど一般的なウイルスです。2003年中国で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の原因がコロナウイルスであることがわかり、急速に研究が進みました。人畜共通感染症でおそらくジャコウネコから種の壁をこえてヒトに感染するようになったと思われます。2012年に流行したMERS(中東呼吸器症候群)はラクダからヒトに感染しました。ゲノム解析の結果から今回のウイルスのRNAは中国に生息する特定の種のコウモリから見つかったコロナウイルスと96%が同じであることがわかりました。中間宿主ははっきりしませんが、そこでウイルスの変異が進み、ヒトに感染しやすくなったと考えられます。コロナウイルスは1本鎖RNAでウイルス粒子は4種類のタンパク質の膜でおおわれています。ヌクレオカプシド、エンベロープ、膜、スパイクです。ヌクレオカプシドがウイルスのゲノムを包む中核部分で、これがエンベロープと膜タンパク質でできた殻の中に収っています。スパイクは球の外に突き出た突起部分で、その先端が太くなって太陽コロナや王冠に似ていることからコロナウイルスの名がつきました。コロナウイルスには上気道(鼻、喉)に感染するタイプと下気道(気管から肺)に感染するタイプがあります。SARSウイルスはACE2という受容体に、MERSウイルスはDPP4受容体に結合します。肺細胞にはその両方の受容体が認められます。上気道にはACE受容体が多く、下気道にはDPP4受容体が多く存在します。MERSの致死率が34%と高いのは、下気道で感染しやすく、肺炎を起こしやすいことが原因です。今回の新型コロナウイルスはSARSにより近く、上気道で感染します。そのため、他人に感染しやすいと考えられます。致死率がMERSのように高くないのもそのためです。
ところで、感染が心配なのでPCR検査をしたいという人が増えています。しかし、感染のあるなしをPCR検査で正確に診断できるわけではありません。新型コロナウイルスに感染して陽性が確認できるのは実は70%程度しかありません。本当は感染しているのに検査結果が陰性の場合(「偽陰性」)、感染を広げる可能性があります。本当は感染していないのに陽性になる「偽陽性」の場合は逆に隔離の対象になります。しかし、それでベッドが埋まれば、病床不足に陥ります。現在のところ、1週間程つづく微熱は自宅待機が原則です。高熱や全身倦怠感がでれば帰国者・接触者センターに直接電話したうえで医療機関に受診することが必要です。ときどき会社からコロナに感染してないという「非感染の証明書」がほしいという患者さんが来られます。新型コロナウイルスに確実に感染しているかどうかは、その人に基礎疾患があるか、帰国者に濃厚接触したか、周囲に感染者がいないか、医療従事者かどうか、酒、たばこなどの生活習慣、PCR検査、臨床症状などを総合的に判断する必要があります。
2020.3.31. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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