新型コロナウイルス その16 喘息
国立国際医療研究センターが6月2日、興味深いデータを発表したのでご紹介します。一般に、喘息患者は風邪をひかないように常日ごろから、手洗い、うがいなどをしています。それは、風邪を引くと喘息が悪化することを知っているからです。今回発表された内容は、喘息患者は新型コロナウイルスに感染する率が一般の人に比べて少ないという意外な報告です。1.中国・米国・メキシコの8都市から報告された合計17,485名の新型コロナウイルス感染者のうち、気管支喘息の合併率は5.27%でした。一方、当該国の一般集団での気管支喘息患者の有病率は7.95%であり、患者群のほうが有意に低かったということです。2.このことは、気管支喘息患者が新型コロナウイルスに感染しにくいということを示唆しています。3.中国と米国の新型コロナウイルス患者合計2,199名(軽症者1,193名と重症者1,006名)の中で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者と糖尿病患者の比率は有意に重症者に多かったものの、気管支喘息患者の比率には差がありませんでした。4.このことは気管支喘息が新型コロナウイルス感染症の重症化と相関していないことを意味します。5.試験管内での鼻粘膜上皮細胞や気道上皮細胞の新型コロナウイルスのACE2受容体の発現は、IL(インターロイキン)−13で刺激する(喘息発作状態に近い)と減弱し、インターフェロン(IFN)で刺激すると増強します。また、ACE2発現強度はアレルギーの強さの指標と逆相関していました。6.つまり、アレルギー疾患患者の気道上皮細胞でのACE2受容体の発現は健常者に比して低いという結果でした。7.気管支喘息患者では、新型コロナウイルスと同じくACE2を受容体とするSARSウイルス(SARS−CoV)の感染も少なかった、と報告されています。気管支喘息患者においてはダニ、HD等のアレルゲンの暴露、気圧の変動、ウイルス感染症は増悪発作のリスク因子であることが知られています。ウイルス感染症ではこれまで特に風邪症状を引き起こすRSウイルス、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルスなどが喘息増悪に関連したウイルスであることが知られています。これらのウイルスとコロナウイルスとの違いは、これまで何度も出てきたように、コロナウイルスの細胞膜上のタンパク質の突起が、鼻粘膜や気道上皮のACE2受容体にくっつく性質を持っていることだと思われます。もう一つ重要なことがあります。高齢者や癌治療後、糖尿病・高血圧・脂質異常症でコントロールの悪い人は免疫が落ちた状態が考えられます。そこに、ウイルスがヒトの細胞の遺伝子に飛び込んで、のっとってしまいます。よく患者さんで、免疫能力が落ちたからアレルギー性鼻炎・喘息・アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状が出たと勘違いしている人がいます。アレルギーはもともと免疫がTレグ細胞(制御性T細胞)の制御が及ばずに暴走した結果起こった現象です。新型コロナウイルス感染症に関連していえば、重症化に伴うサイトカインストーム(免疫暴走)類似現象と言っていいと考えられます。しかし、感染のリスクが有意に少ないということなので、喘息患者さんにとっては一安心です。
2020.6.5. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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