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Drコトー診療所


 Drコトー診療所に「命の期限」というエピソードがある。島の役場に勤める若い男性の妻に胃がんが見つかり、コトーは回復手術を始めた。しかし、腹膜播種が見つかり手の施しようがなく、そのまま閉腹した。その夫婦には余命2か月と告げて、やむなく化学療法を始めるが、妻はだんだん元気になっていく。2か月後、夫婦の熱意に押されて再手術を行うが、驚いたことに播種が消えていた。原発巣を取り除いて、無事手術は終了した。夫婦はDrコトーに感謝するが、コトーは自分が命の期限を告げたことを、その後深く後悔する。人の命はDrの手の届かないところにあることに始めて気がつく。私がまだ若いころ勤めていた病院で、肺癌で血性胸水の50歳代の男性患者がいた。大学病院に送ったが、おそらく余命はもって3か月程度と思っていた。まだがんの告知を本人にするほど医学も発達していなかった。3年程して、その患者が外来に風邪で受診した。目を疑って本当に同一人物なのかどうか、もう一度カルテを確認した。胸部X線写真を見てさらに驚いた。影が完全に消失していた。3年前の胸水の細胞診などを確認したが、やはりグループXで間違いなかった。医師になって40年が経過しようとしているが、何度かこのような出来事に遭遇した。杉田玄白が「解体新書」を書いたのが1774年。それ以来、医学の進歩は目を見張るものがある。しかし、「命の期限」を患者に告げるほど、いまだ医学は発達していないということを感じさせるエピソードであった。


2023.6.9 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
東京保険医新聞 令和5年 「消夏号」から

 

 

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