脱炭素狂騒曲 その8 気候テック
気候テックとは、原因となる温室効果ガスの排出を減らす技術だけでなく、温暖化の影響への備えを進めたり、気候変動への理解を深めたりする技術やサービスのことです。毎年3月に米テキサス州で開かれるテックイベント「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」が有名です。米調査会社「Holon IQ」によると、気候テックへの投資は701億ドル(約9兆8千億円)となり、前年比89%増えました。今年1月時点で、気候テックで評価額10億ドル以上の未上場「ユニコーン」とされるのは米国や中国を中心に世界で83社に上ります。国際エネルギー機関(IEA)の試算では、温暖化対策の国際ルール「パリ協定」の目標達成に必要な費用は約8千兆円です。米国で気候変動対策を担当するジョン・ケリー大統領特使は「産業革命以来最大の変革となるだろう」と語っています。ちょっと待って下さい。本当に脱炭素で温暖化を防ぐことができるのでしょうか。地球表面の暖かさは、ほぼ全部太陽エネルギーの恵みです。仮に大気がなかったら、平均気温は太陽と地球の距離が決め、氷点下18℃になってしまいます。海も凍り付く低温ですから、生命は生まれなかったでしょう。太陽から届く光は、いろいろなものに吸収された後、赤外線に変わり、ぴったり同じ量のエネルギーが宇宙に戻っていきます。地球をくるむ大気の中では、特別な分子が赤外線を吸った後、エネルギーの一部を地球表面に向けて放出します。するとその分だけ地球表面が暖まり、平均気温はプラス15℃に上がって、差し引き33℃分だけ暖かいのです。仕組みは実際の温度と同じではないのに、なぜかそれを「大気の温室効果」と呼んでいます。33℃の全部がCO2のせいではありません。大気はCO2の数千倍も水蒸気(H2O)を含み、分子1個が赤外線を吸う力はH2OとCO2でほぼ同じです。したがって、33℃のうち、31〜32℃までは水蒸気のおかげで、CO2の効果は1〜2℃分しかありません。気候テックに夢中な人たちはCO2の排出量とCO2の濃度をはき違えているようです。地球のCO2の濃度は3兆トンです。年間の排出量(約330億トン)は約その1%ですから、排出分がそのまま大気にたまるにしても、総量は1%しか増えません。排出量が5〜7%の増減をしても、総量は(つまり濃度)の変化は「1%のさらに5〜7%」ですので、大きく変わったりはしないのです。京都議定書は2005年に発効されましたが、その後、5年間にCO2排出量が減った形跡はありません。一方コロナ禍では、経済活動の減少で6%減少しています。つまり、CO2排出量を減らしたければ、経済活動をストップするしかありません。「パリ協定」をうのみにすれば、2050年までにCO2排出量をゼロにする必要があります。ここで中学生の理科の問題ですが、生物のみなもとは、塩と水を除けば植物による光合成です。およそ27憶年前、海中で藻類が誕生しました。藻類は太陽光を使い、光合成を行い、これが植物プランクトンになります。これを動物プランクトンが食べ、小魚が捕食します。その後、生物は陸上に進出し、多様な植物による光合成が行われるようになりました。草食動物も肉食動物も元をたどれば植物に行きつきます。植物は太陽光のパワーを使い、CO2から炭素化合物を作ります。ヒトを含めた動物は植物に寄生するしかない、一番だらしない生物です。暮らしに欠かせない冷蔵庫、テレビ、洗濯機も自動車、電車、飛行機、大都市の夜景もすべてが植物のめぐみです。地球上に氷がなく、グリーンランドが緑の大地でおおわれていた恐竜の時代、CO2は今の何倍もありました。気候テックができるのも、元をたどればCO2と太陽光のおかげです。脱炭素政策は大きな、大きな勘違いです。
2023.9.5. 氷川台内科クリニック 院長 櫻田 二友
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